世俗でもなく、非世俗でもない、そのいずれにもとらわれない、きわめて困難な、きわめて危い、中の道を歩め。
- 梅原猛『空海の思想について』

四月十五日

Photo H君、己は昨日五十歳になつたよ。「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり」。二小で齋藤先生に教わつた詞を思ひ出す。 さう云えば、北朝鮮のミサイルは空中爆発したやうだね。ざまあ見やがれ。どうせなら制御不能になつて支那に飛んで行けばよかつたのに。 北のミサイル開発関係者が責任取らされて処刑されているだらう頃、己はオートバイの教習を受けてゐた。 学課と実技の教習を修了すると、オートバイ免許の実技試験が免除になる。日本の教習所と同じ仕組みだ。家から車で三十分くらいの Sauk Cityにある 結構でかい Harley-Davidson のディーラーで Harley-Davidson Rider's Edge といふ四日間のクラスを受ける。

一日目:四月十二日、午後六時~九時
今日と明日は三時間の学課。三十分早く着ゐてしまつたので外で煙草を吸つて時間を潰す。 「あんた教習受けるの?どんなオートバイ乗つてるの?」おばさんが話しかけてくる。「左様。少々時間があるので時間を潰しております。拙者はまだオートバイは所有しておりませぬ」。 この人の子供が教習受けるのかなと思つてゐたら、このおばさん自身が生徒であつた。その素晴らしいアメリカン・オバサンな体型でオートバイ乗れるのかな。。。 ディーラーの受付で名を名乗る前に、名札を渡される。「あんた、Shinでしよ」。生徒全員集まるまでの間、ディーラーの中をぶらぶらする。やつぱハーレーでけえな。 ディーラーの二階にある教室で学課教習。生徒は男四名、女三名。年齢層はバラバラ。日本の教習所でよく見かけるヤンキーのにーちやん、ねーちやんは居ない。 内容は教習と云ふより学校の授業のやうだ。生徒を二つのグループに分けて、グループ毎に教則本の問題を共同で解く。これは己にとつて最も苦手なパターン。 きつと亞米利加の学校の授業つてこんな感じなんだらう。最初に会つたおばさんはこの日でオートバイは無理と判断したやうで、スクーターのクラスに移つた。

二日目:四月十三日、午後六時~九時
教則本もオートバイの構造、操作方法まで進んできた。この分野になると英語でも大分楽になる。今日から別の女生が参加。歳は己と同じ位かな。 今日の早い時間から昨日の学課分の教習を受けてゐたやうだ。 半クラッチは英語で Friction Zone。さう云へば「半クラッチ」といふ日本語は変だ。 このディーラーの従業員の息子も昨日受講してゐたが今日は来ていない。遅刻、欠席するとコースを修了出来ない筈だ。従業員特権か。 「誰か明日誕生日だつたよね」、「拙者で御座る」。いよいよ明日から実技教習。

三日目:四月十四日、午前八時~午後五時
集合場所はディーラー建物の裏に在る教習コース。まだ朝は寒い。午前八時前に来て準備しておけと昨日言われてゐたのにマディソンが来ない。 彼女は昼間は大学に通つて夜は仕事してゐるやうだ。ウィスコンシンにキャバクラは無いからキャバ嬢ではないだらう。 実技教習のインストラクターは二人。学課のインストラクターでもあるディーディーとドグ。もう一人インストラクター見習いのオッサンも参加した。 ドグはスキンヘッドで體がでかい。紋々入つてないからヘルスエンジェルのメンバーではないだらう。 暫くは半クラッチ状態で足で地面を蹴つてパワーウォーキング。遙か昔の事なので覚えてないけど日本の教習所でこんな事やつたつけ? いい加減足が疲れた頃に、一速で直線走行。「今まで一度もオートバイに乗つたことがない人?」、二人の女性が挙手。「昔乗つてたけど暫く乗つてない人?」、己が手を挙げる。 休憩時間には煙草も吸えた。「あれ、マディソンのヘルメット、ポニーテール仕様?」、見るとヘルメットの中の衝撃吸収材の後方がカットされてゐて髪の毛が出せるやうになつてゐる。 直線走行からコーナーリングも少し練習。マディソンが転ける。エミーが転ける。名前を覚えられなかつた長身の白人女性が転ける。 今日、明日は一日教習なのでディーラーが昼食を用意してくれる。クラスルームで皆でサンドウィッチを頬張る。 「あんた、何処から来たの?」、「東京で御座る」。成程、道理で英語喋るの遅い訳だ。一同納得。「あたしの母親は日本人よ」とエミー。 「あんた達、知り合い?」。そんな訳ねーだろ。エミーの父親は米国軍人。奈良で生まれて家族で亞米利加に来たそうだ。 広島原爆攻撃の話をし出したので驚いた。原爆攻撃の話を自らする亞米利加人に初めて会つた。 昼食後、教習再開。何故か長身の白人女性がインストラクターに突つ込みそうになつて転ける。膝を強く打つたらしくて実技教習を止めて見学。 午後三時、クラスルームに戻つて教則本の残りを片付ける。長身の白人女性はこの日でクラスを去つた。上品で優しい女性だつたので残念。:-) 教習最終日の明日は実技試験と学課試験。実技試験は何とかなるだらう。然し、学課試験に落ちたら洒落にならんので家に帰つてから教則本を読み直す。

四日目:四月十五日、午前八時~午後四時
雨。午前八時になつても紋々のショーンが来ない。インストラクターが電話する。ちやんと集合時間に来いよ、亞米利加人。 雨の中、S字、コーナーリング、カーブ内での停止、急制動、障害物回避、障害物越えの実技教習。この後試験があるので今日はインストラクターが厳しい。 S字は長方形の枠の中で自分でイメージして低速でカウンター・ウェイト使つてS字を描く。「Shin、お前からやつてみろ」。 しまつた、インストラクターのデモンストレーションをよく見てゐなかつた。S字じやなくて八の字走行しちやつたよ。 「何しとんねん、ワレ! S字じゃ言ふたやろ!」、「すんまへん!」。何か自転車の癖が付いてゐるやうで、コーナーに入つた後もブレーキレバーに軽く指が掛かつてる。 「コーナーで絶対にブレーキ使うな! スロットルを軽く回せ!」、「ワレ、何でブレーキに指掛けとんねん! その右手、ダメよ~、ダメ、ダメ、ダメ!」。 「いいか、カーブ内で停止する時は、まず車体を立てろ、そしてブレーキ」。路面塗れてるからカーブ内での停止は滑りさうだな。ワイアットが転ける。ショーンも半転け。 まあ、転けてもいいか、教習車だし。「おつ! 今の上手かつたじやん、どんな感じだつた?」、「恐えーよ!」。 急制動の練習ではスピード出しすぎて制動距離が長すぎた。「阿呆か! スピード出しすぎ」。障害物回避と障害物越えは実技試験には無いので遊び。 「よし、これから直線走行とコーナーリングの試験だ。頭を下げるな、目線は目標に、コーナーでブレーキ使うな」。皆で円陣を組んで気合を入れる、「Ride Hard!」。 「次は、急制動の試験。シフト・ダウンを忘れるな!」。今度は皆で輪になつて自分前の人の肩をポンと叩く、「Good luck!」。 二つの実技試験を終えて、昼食。「お前は、何に乗りたい?」、「己はDynaかSoftailかな。。。でもちよつとでかいかな。。。」、「あたしは Forty Eight がいいわ」。 でえ~、痩せつぽちのマディソンが Forty Eight かよ。やつぱ己は Dyna だな。 教習コースで最後の実技試験。「最後の実技試験は、S字と障害物回避だ。あそこの障害物ポールを右に避ける、いいか、右だ、左に行くなよ。右と左が分かる奴なら大丈夫な筈だ。 皆、右と左は分かるな。右手を挙げてみろ!」。ここで左手を挙げたら大爆笑の筈。でも止めておこう。また皆で円陣。「Ride Harder!」。 試験で八の字やつたら落とされさうだから慎重にS字カーブの後、障害物回避。長方形の枠の中でのS字カーブは女性には難しいやうで、枠からはみ出しちやうね。 それでも実技試験は全員合格。一人で両腕を挙げて万歳!。あれ、皆冷めてんじやん。 「ビクトリー・ランしたい!」、「いいよ、でも変なことすんなよ」。全員でホーンを鳴らしながらコースを二周。暴走族かよ。こんな事は日本の教習所では有り得ないな。 後はクラスルームで学科試験。インストラクターは学科試験を試験とは言わず、セレブレーションと呼ぶ。全員合格で当たり前らしい。問題は五十問。一問毎にa,b,cのな中から答えを選ぶ。 時間は無制限だが亜米利加人は英語を読むのが速いから皆直ぐに終わる。気が付くと己が一番最後。三問間違えたけど合格。 これで全員無事修了。Motorcycle Safety Foundation Basic Rider Course を修了したのでオートバイ免許の実技試験が免除になる。保険が二割安くなる。 最後にディーディーがエミーを祝福した。彼女は二年掛けてこのコースを修了したと云ふ。実技教習初日の休憩時間に彼女と少し話をした。 「あなた、昔乗つてたんでしよ。また直ぐに乗れるやうになるわよ。あたしは子供が大学を卒業して時間が出来たからオートバイに挑戦してるの。」 いつもニコニコしてよく喋るおばちゃん。どう見てもオートバイー乗るようには思えないけど、やつぱ半分日本人の血が入つてるだけあつて不屈の精神の持ち主だ。 然し、女性は強いね~。己も負けてはゐられない。有事に備えて自転車でもオートバイでもカラシニコフ担いで走り回れるやうに訓練しなければ。 QED


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